本日の機内食は…お決まりの和そば、ビーフステーキナントカ風(ポテトグラタン・ホウレンソウソテー・人参添え)、オードブルのサラダは魚介類なので申し訳ないがゴメンナサイをして、デザートはアプリコットケーキ、コーラにコーヒー・ミネラルウオーターであった。シンガポールエアラインの機内食はけっこう好きなのである。

 げに恐ろしきかな入国審査官。
 そのおばさんのようでもありお姐ちゃんのようでもある人は終止無言で無表情いわゆる能面顔でじっとりと睨めつけている。パスポートをゼロックスするのも飽くまで無機質的で、私が悪うございましたと謝りたくなる。それほどぼくは怪しい人物なのか。ガラ空きだったしメシもうまかった機内のおかげで浮かれていた気分も、萎れてゆく。大阪にある領事館もどきの担当官は二週間以内ならビザはいらないと言ったはずだが、そのまま日本に帰るわけではなく第三国に向かうのでそれには当てはまらないかもしれない。少し抱えていた不安が俄にふくらんでくる。

 爬虫類的視線に耐えた甲斐あってか、入国不可と言われることはなく到着ロビーに出れば、お次はいやにフレンドリーな人々が待ち受けていた。日本語のうまい客引きおっちゃんが「二割ひきますョ」と寄ってくるのはガイドブック通りの筋書きだ。ぼくたちはそのネーミングの素晴らしさから、青年活動中心というユースホステルもどきの宿に泊まる心積もりにしているし、だいいち客引きというものを信用しない。おっちゃんには悪いがするりと切り抜ける。そんなことよりも、とにかくリコンファームをしなければいけない。
 しかし飛行機会社のカウンターがわからない。おっちゃんを躱しつつあっちへ行きこっちに戻りしていると早くもテの叱言が聞こえてくる。今回の旅では行く国によって添乗員といおうか世話役を決めることにしている。台灣の案内役は不肖わたくしになっているのにこの始末だ。機内で躁がずに空港の地図くらい頭に叩きこんでいればよかった。困ったのうと途方に暮れているとテはすたすたと旅客服務中心へと向かった。ちょちょいのちょいと場所を聞き出したから、ますます男を下げてしまう。カウンターはいったん外に出てぐるりと回ったところの、出発ロビー側という至極当り前の場所にあった。そんなこともわからんようでは、これから先が思いやられてしまう。反省。

 カウンターではどういうわけだかホテルの電話番号を聞くので、国際青年活動中心の番号を見せておいた。まだ正式に泊まるとは決まってないのであるが、この際しかたあるまい。世渡りは臨機応変な態度が肝要なのである。臨機応変ついでに、台灣銀行も見つけてもらい、現金七千円、トラベラーズチェック一万円を両替した。手数料は十元。
 百十一元でバス(汽車というらしい)のチケット(車票)を買い求め、約五十分でいよいよ台北市内へ。はじめのうちは日本の風景とさほど変わらないように思えたけれど、近づくにつれて赤と黄色の看板や中国的な建物が目立ち始めると、おー、いよいよやなーと、さっきとは違う種類の不安に包まれてくる。
 終点の台北車站前に降り立ったはいいけれど、全然右も左もわからない。強烈な排気ガスと日差しの中、とにかく目印になる車站(駅)までドタドタと向かう。工事のせいで恐ろしく遠回りをしなければいけないので、早くも汗だくになったけれど、その巨大な車站の中に入るとヒンヤリとしていて、とりあえずはホッとした。目的の台北国際青年活動中心に行く為には、バスに乗らなければいけない。バスに乗る為には、車票(ツオーピャオ)という回数券を買ってから乗ると、お釣をくれない市バスには便利であーる、という情報を握っていたので、それっぽい売店で聞いてみることにした。鳴呼取るに取れない貧乏性・・・。


街は漢字であふれている。当て字だろが何だろが、漢字漢字漢字。考えてみたら当たり前なんだけど、はじめは面喰らってしまいます。けど妙に納得できるからさすがです。
●ファミリーマート
 =
全家便利商店
●ケンタッキー=肯徳基

 _______しまった。
 一体どう言えばよいのか。簡単な中国語くらいは頭にいれておくべきだった。かといって、英語で言う度胸もないし・・・こういう時は必殺単語の連発攻撃に限るのである。
 「ツオーピャオ、ツオーピャオ」
 と言ってみると、フツーなら、「はいよっ」とにっこり笑い、引きだしの中から取りだしてくれそうなもんだけれど豈図らんや、そんなもんは知んねェなあ見たこともない、と行く店行く店がことごとくケンもほろろ。とうとうテは爆発してしまった。急遽目標をYMCAに変更した。あれは確かこの近所のはずとキョロキョロ見回すとあったあったありました。すたすたと乗りこみ「ドゥーユーハバールーム?」
 「はいございます、でも、お安いほうのお部屋はもう満室でしてお高いほうになりますがよろしいでしょか?」

 意外と言うかやっぱりと言うかしっかりと日本語で答えてくれた一千八百七十元の部屋はクーラーもついた大きな部屋だった。日当りも良くないし空気も澱んでいるけれど服を脱ぎ散らかしてソファの上で本格的にホッと一息ついた。
 沖縄よりも南だから相当暑いであろうと覚悟していたけれど、思ったほどではないなというのが第一印象である。といってもやはりここは南国おまけに重い荷物、暫くふうふうと汗を拭いつつ今後の作戦会議をおこなった。

 国際青年活動中心予約服務を探しに向かうがガイドブック通りの場所には存在しなかった。
 少し外れた所に『青年活動』と書いてある事務所を発見したのでもしかしてと思いつつ入ってみると国際青年活動中心のパンフを発見。ニハオと言って予備校のアルバイト先生みたいなねえちゃんに近づいた。
「ここでこのパンフのホテルの予約はできますか?」

台北のとある町並み


聯営公車
実は案外役に立つすぐれものだった。読解してみると、街の様子がわかってくるような気がした。

 「・・・・・・・・・・」
 英語でちゃんと尋ねたつもりなのにアルバイト先生は、目が点になっている。やはりぼくのエーゴは無茶苦茶なのか、それともこの先生はエーゴを知らないのか。向こうさんも同じように思ったのか紙とペンを差し出して
 『ここにかくのこころよ』
 と目で促した。
 おう、その手があったのかハタと手を打ち、書きなぐった。
 [予約]
 『イングリッシュでかくのこころよ!』
 [reserve]
 「・・・・・・・・・・・」
 アルバイト先生は、うしろに控えた仲間たちその壱その貳その参に紙をピラピラと見せて振り返り、首をかしげてこう言った(と思う)。
 『これはどういう意味なのであるか?』
 そうして、パンフレットにある電話番号の部分をボールペンでこつこつと叩いて何か怒ったような調子でぼくたちに言い放った。
 ______電話をかけて勝手に予約しろということか・・・・・・?
 「そんなことできたら苦労しないのココロよ」
 声にならない罵りを残しぼくたちは台北車站へと向かったのであるが、しつこいようですがこの周辺は特に排気ガスの濃度が濃い。車站の中は恐ろしく広く列車(火車)の乗り場(月台)は地下にあるしかし今はかんけーない、ぼくたちに残された方法は、明日直接青年活動中心に行くための汽車乗り場を見つけるという方法だけなのである。

 車站をぐるうりと回っても全くわからない、もったいないけれど『聯営公車』定価五十元也を買うことにした。
 「ツオーピャオ?」
 そう言って、その本を指差し[車票]と書いた紙切れを見せながら売店のおっちゃんに聞いたら、『すべてここにあるんじゃのこころよ』と頷いたようなので意を決して五十元を支払うと、おっちゃんはホイホイと並べてあるそれを取り、排気ガス雨風まみれのビニールをピリリと破きぼくに手渡してくれた。
 三越の横にあるちょっとしたベンチに座り込み早速調べてみると、一番はじめにうろついたすぐそばにその乗り場があったぁわいな、あーこりゃこりゃ。しかしやはり車票のことはどこにも載っていない。もう車票制度は廃止されたのかもしれない、あのガイドブックも古いからなあ。急遽その実態を調査するべく我々は現場に急行、汽車に乗り込む人々を逐一観察するとみんな前から乗り込み、予備校生ふうのあんちゃんはポケットから小銭をチャラチャラと取りだし銭箱に入れている。次の人も次の人もどうやらお金を入れているようであり、誰もチケットらしきものは入れていない。これも身から出た錆、安もん買いの銭失い、雑兵を追って大将逃がす・・・初めからバス停を探していればよかった。

台北路上焼葱餅事情
玉子入り1/4=15元
玉子なし1/4=10元


ホンダタクトに載せていたビニール袋入りの仕込み材料を、ここでバンバンと叩きのめし・・・


・・・この麺棒でペラペラに延ばすやいなや、(1)に放り込む。主におっちゃんの仕事らしい。

 ハラへったとテが言うので台北車站の二階へ上がるとそこはまるで梅田阪神百貨店の地下を思い出させる一大フードプラザ、思わず嬉しくなり一回り。寿司、ピザ、ロッテリアなんかもあるけれどまずは台灣らしいもの、素食といういわゆるベジタリアン料理のセルフサービス店があったのでそこに決めた。
 カウンターの上に大書した漢字だらけのお品書きを睨み、その文字から出てくる匂いを想像しつつ「これとこれとこれ」と言って指差した。
 ぼくは香茹素肉燥湯(三十元)と素肉燥飯(四十元)、テはカレーライス。カレーはいまひとつであるが香茹素肉燥湯はうまい。コリアンダーが効いていて異国の味がする。
 よっしゃあ、お次はデザートじゃあ、と隣の店で伝統豆花(冷)二十五元を指差した。うーん、絹こし豆腐甘大豆のせ氷をかけてちょい甘めシロップを流しこんだ、という感じ。デザートと言うべきか何なのか、なんかよーわからんけど、うまいような気がした。
 今日の心配するべきことはもう無さそうなので旅の醍醐味ぶらぶら歩きを始めると、通りの向こうにうまそうな屋台を発見した。葱餅と書いてある。ああ、いよいよ台灣にやってきたのだなあと思いながら、ぼくたちは通りを渡った。


おばちゃんが(2)で玉子を焼き、(1)で焼き上がった葱餅に載せ、二つ折りにしておっちゃんに渡す。


おっちゃんが四分の一に切ってくれる。


タレ。
セルフサービスで勝手に塗りたくる。醤油系とトーバンジャン系の二種類ある。もちろん両方塗っても怒られないに違いない。

(c)1995-2002 HaoHao

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