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-油條と焼餅-
油條が揚げパン、焼餅がナン風に焼いたパン。
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油條(ユーティアオ)
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を折る
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(A)
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焼餅(シャオピン)
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を折る
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(B)
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(A)を(B)で挟む
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う、うまい!
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トーチャンを飲んだ。初体験である。
豆漿(トーチャン)というと豆乳でつくったスープのことである。漠然とそう思っていたけれどその認識は甘かった。朝七時半ごろホテルを出て右に折れ吉野家の角を左。目の前で玉子やらハムやらをじゅうじゅうしスパッとまっぷたつに切ってハイできあがりの路上サンドイッチ(三明治)屋の前でヨダレを垂らしてからスタスタ。ちょっとだけ直進ののち頃合を見計らい左折して暫くそのままそのまま。するとこれまた店先の七輪もどきでナンのようなものを焼きつつそのまたチョイと奥ではおなじみの揚げパン『油條』のもとを大きな中華鍋に放り込んでいる。
看板を見ると『永和』とある。情報筋の間ではこの名前が話題に上っていたような・・・とすばやく分析し中を観察する。人の入り上々おばちゃん愛想良し店先じさまは職人気質。この店に入っていけない理由はどこにもない。
でっかい鍋に入った乳白色の液体を指差し指を二本たてるとおばちゃんは何か言う。そんなこと勿論わからないのでぽかんとしてると後の菜単(お品書き)の『冷』と『熱』のあたりを指差してくれた。少し迷った末「ホットホット」と高らかに宣言した。
油條のほうも指二本を立てる。おばちゃん今度は何も言わずに油條単体とそれをナンもどきで挟んである『油條サンド』とでも言うようなものを二つを掲げてにこりとする。こっちにした方がおいしいわよという顔に誘われてヨロコビつつ油條サンドをお願いする。
豆漿は注文すると使い捨てどんぶりに何やら白い粉をチャッと入れる。然るのち肝心の乳白色液体を大きな柄杓で流し込むという寸法であるようだ。油條サンドはポリエチレン袋に入れて渡される。二人前六十四元を渡し勤め人風おじさん(推定四十七才)の前に腰降ろし一口含むと大豆の薫りのなかに仄かな甘みがあった。
日本でよくある豆乳飲料とは違う。油條サンドはカリッと揚がっておまけに外側のナンもどきが油っぽさを緩和してくれている。続けざまに豆漿をすすれば鳴呼是所謂至福ノ時。
豆漿と油條。
別々だとちょっと物足りない感じもするけれど同時に食せば絶妙なハーモニーを醸し出すゴールデンコンビであると断言したい。
ふと我にかえり回りを見れば西洋の留学生らしきあんちゃん(エリック・クラプトン似)がテーブルを離れるところだ。クラプトンは容器をゴミ箱に入れる。その上にさりげなくぶら下げているトイレットペーパーを引っぱり口を拭いその場を立ち去った。かっこいい。
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真似をして意気揚々に謝謝と店を出る。さらに散策は続く。パン屋のパンも見るからに中華風いっぺん試してみたい。
大路を渡り公園らしき場所に紛れ込むと二・三人ずつで太極拳をするグループがちらりほらり。おおやっぱり本場のこころあるよ。奥へ奥へと進めば四十人くらいの集団がラジオ体操的集会を開講している。真ん中の大木の下にいるのが先生のようでマイクを使っている。観察していると何処からともなく現われた生徒『甲』は一礼したのち体操に加わった。と思っていると今まで前屈姿勢腰摩擦体操を行なっていた生徒『乙』も一礼してさァ出勤だァと四時の方向の人となったので我々も一礼のあと前屈姿勢腰摩擦体操の人となった。
「イーッ、アル、サンッ、シッ・・・」
若くて元気な女の先生の掛け声が響いている。
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国立台灣大学自助餐庁
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A
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白飯
(お替わり自由!!)
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B
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なすにんにく
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C
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使い捨て容器
セルフ店ではこれが巾をきかせている。
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D
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厚揚げ
日本で食べるものとほぼ同じ味。
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E
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中華風ソーセージ
少し甘めの八角風味
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F
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スープ(湯)
(お替わり自由!!)
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G
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豆腐の豆鼓炒め
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降りる轉車站(バス停)を間違えてはいけない。
通勤ラッシュも過ぎた時刻だからか右側座席に腰を降ろすことができたのはもっけの幸いであった。『聯営公車』と轉車站の看板とをにらめっこしつつ街の風景もそれとなく観察した。恐ろしいまでのバイクの交通量。中正記念堂。金華女中。モスバーガー発見。安東市場もうそろそろかな。いいやまだまだ大安衛生所。あ。次みたい紐ひっぱらなあかん。
ジリリ。
いくぶん古風な音をたててベルが鳴る。漢字だらけの赤いランプが点滅する。二人前二十四元也いささか中途半端な値段なので一元玉を常に持っていなければいけないようだチラリと頭の片隅で考えつつも間違えることなく我々は台北国際青年活動中心前で二百三十七番のバスを降車することができた午前十時前。「けっこう大きな建物だねえ」テはそう言ってザックを担ぎなおした。
さあどう言って受け付けをしたもんかと緊張して服務台に赴くと本日一日だけなら空いているらしい。はて困ったのう。であるが折角ここまできたんだからと八百四十元支払いエレベーターに乗り込む。そこは昨日と比べればチトてぜまではあるが明るくすっきりした千十二号室であった。
さあ明日はどこに泊まろう。
協議の結果もう一つあるという『剣潭青年活動中心』を下の服務小姐に予約してもらえないか頼んでみることになった。さっきの服務小姐とは違う小姐がカウンターの向こうに座ってうまそうな弁当をパクついていたので恐る恐るエクスキューズミーと声をかけた。
さすが『国際』と名が付くだけあってリザベーションという単語は通じたようではあるが「あそこに電話があるから」と四時の方向をボールペンで指差した。電話をかけられるくらいなら誰もあんたに頼まんわいと心の中でつぶやいていると宿帳のようなものをめくりながら
『なぜ明日もここに泊まらないの?』と彼女は言った。
と我々の頭脳は理解した。
「えっ、アイテルのココロ?」
『ただしルームはチェンジしなければいけないのこころよ』
「いやー、そんなんかまへんかまへん」
「オーケー」と言って彼女は何やら宿帳に書き付けた。
「ツイデニ五月十七日と五月十八日もヨヤクできまセンか?」
少し余裕が出てきた我輩は強気な態度に出ることにする。
「できますよ、えー、あなたがたの予約番号は三〇七です」
どういうわけだか今度ははっきりとわかったような気がした。
「オーケー、シェシェ」
ずいぶんと肩の荷が軽くなった我々はスタスタと歩き出した。
この台北国際青年活動中心は台北市内の南の外れに位置し国立台灣大学の近所であり既に昼を廻っているということもあり事の成り行きとしてその学食に潜入することになったのは衆目の一致するところである。くんくんと鼻を効かせて辿りつきアンタ学生ではないあるねと断わられることも無くセルフサービスの順番に並ぶことができ後は極楽極楽。
かまど家の大関さん弁当的容器を差し出し目についたうまそうなおかずを指差す。中華的腸詰め。厚揚げ。茄子大蒜。豆腐黒豆炒めをいれてもらいレジに到着。テもしっかり入れてもらって嬉しそう。二人で百二元也。円に換算すると約四百円ということになる安い安いうれしくなるのう。ホカベン容器を丸テーブルに置き交代でごはんとスープ(湯)を注ぎに行くどうやらこの二品はお替わり自由らしいしかもロハだしうはうは言うでよ。同席の我々以外の人々もどう見ても学生には見えないもしかして教授それとも掃除のおっちゃんか。おっそろしくうるさい。喋っては散らかし散らかしては喋るがそんなことも忘れるくらいそれらは旨かった。満足満足我爆発的大満足祝祭的興奮。
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ちょっとばかしそのへんをブラブラしてバスに飛び乗るとどうやら行き先を間違えたらしい確かに台北車站と書いてたのに。あ西門市場。このへんに高雄牛乳大王があるはず。高雄牛乳大王。ガイドブックに説明は無いけれど地図の目印として登場させたら一番の店であると認識しているのだがその実体は未だ掴めていない調査せねば。よっしゃ降りよう。
と思ったけれどその辺りごちゃごちゃしてて分からずじまいなので摩天楼新光三越百貨公司を目指して歩いた。そこまで行けば台北車站は目の前だから良い目印になる。車站の二階で今日は昨日と違う豆花屋さんで休憩することにした。ちょっと張り込んで一個三十五元ものを頼めば旨いものであるということがはっきりとわかってしやわせな気持ちになった。絹こし豆腐と言うより豆乳プリンおまけに金時豆も載っている。
「スミマセン!オアジハドウデスカ?」
突然店の親父が質問してきた。なぜか野球帽をかぶっている。
「えっ、あっ、はいっ、おいしいデっす」
「ヨカッタ、マタキテクダサイッ」
日本語が通じるというのは有難い。ここぞとばかりに質問する。
「あのう、台中行きの予約はどこでしたらいいんでしょう?」
「レッシャ?バスデスカ?」
「あ、列車、火車です」
「ソコノウラッカワネ」
そう言って親父は吹き抜けの真ん中にポツンとあるちょっと大きめのプレハブ的な部屋を指差した。やっぱり向こう側だったのかよしよしと私はメモ帳に必要事項を書き始めた。
明後日から台中に行く予定である。明日のことは明天と言い今日は今天と言う。火車の旅は混むらしいので予約をしておくにこしたことはないそうだ。平日の昼間だけれどそれぞれの窓口には七・八人は並んでいる。我々もメモ帳片手に明天売りの窓口に並んだ。
さすが漢字の国なにも喋らずに購入成功めでたしめでたしと二階の茶店に舞い戻り菜単には六十三個くらいの種類があるけれど麦味紅茶三元也を注文すると読んで字のごとく麦茶と紅茶をたして二で割ったような味だった。
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※宗哲和尚の本
農文協 刊
藤井宗哲 著
[宗哲和尚の精進料理]
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「まだかなあ」
ゆけどもゆけども観世音は現われない。
台灣素食の殿堂『観世音素食』と風流なお茶屋さん『耕読園』にだけはなんとしても行かなければ行けないという使命が我々にはある。軽度のベジタリアンであるテを台灣に連れてくるエサとして「台灣には精進料理がいっぱいあるでー」と甘言を囁いていたのだ。テはベジタリアンというより単に野菜が好き特に豆腐湯葉を使った精進料理が大好きでわが家でもよく宗哲和尚の本を見て精進料理を作っている。しかしこれがなかなか美味しくて精進料理というと法事の時に食べる仕出し屋のおいしくないもんくらいにしか思ってなかった私の固定概念の池に一石を投じてくれた。
湯葉生湯葉の本場京都にも二回ほどは食べに行き確かに旨い旨いのだけれど高いからそうは食べられない。そんな悩みを解消するべくここ台灣にやってきたのかもしれない。しかし色々調べてみると餐庁と呼ばれるレストランは日本ほどではないにしてもやはり少々高いようなのでこれから半年以上も旅を続けなければいけない我々は一回くらいしか行けず後は自助餐庁とか屋台で楽しむしかないという結論に達した。そんな一回こっきりな餐庁参りの白羽の矢が当たったのが観世音であった。
そこは民権東路百三十九号とガイドブックにはある。まだまだ汽車は乗りこなせないので台北車站から台泥大樓まで乗りそこから民権東路をひたすらまあーっすぐ歩くという作戦を展開することにしたけれどご多分に漏れず恐ろしいまでの排気ガスの中だから疲れること請け合いなのである。
『民権東路百三十九号とゆーことは一段二段の区別がないわけでこれは一段の百三十九号を意味しているわけでしかし大路を口を塞ぎながら渡り切ると百三十九号にならないまま二段に変わってしまっているわけで前略おふくろ様おれ達は途方に暮れてしまったわけです』
ガイドブックの誤植なのか区画整理でどうにかなってしまったのかそれとも単に我々の間違いなのかとにかくもう少し歩いてみよう。百三十九号だと奇数なので進行方向に向かって左側になるはずである。左側に移動してさらに歩き続けると漸く観世音の文字が見えてきた。そこはあんまりパッとしない二階にカラオケか何かありそうな餐庁だった。
「ほんまにここかな?」
「うわ、カレーライスの見本があるう」
「あんまり人も入ってないでえ」
住所は民権東路二段二十九号となっている。これはやっぱり区画整理でどうにかなって番号がずれたのかもしれない。せっかくここまで来たんだし素食餐庁とも書いてるし一か八かで入ってみようそれにしても客がほとんどいないのは心配だ。
「ニハオー」
現地のあいさつをして場をなごませる先制攻撃をすると三人くらい屯していた小姐がわらわらと取り囲み一番奥のテーブルへと連行する。顔はにこりと微笑んでいるようだイヤかなりあいそが良いと言ってもいいかもしれない。ウタグリ星人化していた我々の気持ちも少しシンライ仮面に戻りつつある。
ここに来たらぜひとも試してみたいものがあった。蜂蜜でつけたハム(もちろんモドキもの)のサンドイッチで『富貴火腿』というものすごくおいしい台灣らしいたべもの(らしい)である。それは難無く探し出すことができたが写真を見るかぎりではあんまりおいしそうだとは言えない。ここで出てくるのは肉でも魚でもない。だから心配される所謂ゲテモノにはまずお目にかかれないことになっているから安心して皿を頼めるはずなんだけどどうせ食べるならおいしいものを食べたいのが人情というもんです。そこでガイドブックを取りだし検討してみると『「清血養身」をぜひたべて!』とびっくりマークまで付いていたのでそれを探してみた。
うーんどこにもない。にらっめっこをしていると小姐がやってきて『もう決まりましたか』と目で囁いた。
「いや、まだなんですけどー」
間をもたせる為にそう言って紙切れに[清血養身]と書いてみた。すると小姐は『あーっそれはねっ』と人さし指を一本たてて菜単をめくりだした。
結局のところ『富貴火腿』の他は全て筆談で『コレハ淡イ味ツケデアルノココロヨ』とか『反(飯)ハイラナイノココロ?』と手とり足とり小姐のリードで皿を決めたがなんでこれが清血養身なのかいまだにわからない。
一、富貴火腿・・・・・・・百七十八元
一、飄香・・・・・・・・・百八十六元
一、半天筍盂・・・・・・・百九十六元
一、干貝芥心・・・・・・・百二十元
一、反・・・・・・・・・・二十元
飄香は八角風味の海産物風炒めものでイカもどきやアワビもどきなんかは一体どうやって作っているのか見当もつかない。さすが本場おそるべしと平らげているうちにどんどん人が増えていつの間にやら満席状態あー来るのがちょっと早かったんだとシンライ仮面に変身した。
半天筍盂はキャベツ芯のトリガラ風味のスープで肉を使わなくてもここまで味を引き出せるのにもやはり舌を巻く。干貝芥心はわが家でもお馴染みグルテンミートの唐揚げとチンゲンサイを炒めあんをかけた一品。出してくれるのが遅れたお詫びという意味でか味噌汁も一緒に運んでくれた。
いかに安く旨く食べられるかという目標に照らしたら台灣大学の自助餐庁に軍配が挙がるけれど小姐との筆談交渉も雰囲気を盛り上げてくれ大変楽しい時間を過ごせましたどうも有難うと気を良くした我々はデザートも頼んでしまおうと手を挙げた。
「デザート」
と言ってみたけれどどうやら通じない。漢字でデザートはどう書くんだ?
[食後菓子]
と書いてみたら小姐ハハーンとしたり顔。
[水果]と書き更に[西果]と書き加えこう言った。
「チークワッ」
チークワチークワそういわれてもわしゃ困るまさか竹輪じゃあるまいし文字の感じからしてこれはスイカのことかもしれないそれなら海水浴場に散らばるスイカ割りの残骸に群がった蟻を思い出すので実はきらいなんだよねとスイカの絵を豪華四色ボールペンで描いてみるとそうそうそのとうりよと言っているみたいなのでじゃあお勘定にしてねと掌に人さし指で文字を書くまねをしてサービス料10パーセントも併せて支払いにこやかに店を出てチークワチークワとつぶやきながらとっぷり暮れた民権東路を歩いていると少しは排気ガスの量も減っているような気がした。
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