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 少し寝坊をして8時50分、ディミットラにコーヒーをもらって屋上で朝めしをくう。本日は先客にドイツ人のおっちゃん夫婦、少し遅れて隣のドイツ美女二人組などがひしめき、結構な賑わいである。遅いからかな。
 昨日最初に尋ねた方のおっちゃんバイク屋に行くと、なぜか昨日借りた方の店にいたアンちゃんが出てきた。であるが、その疑問はおいといて今日はカッチョいい赤カブに乗ることにした。

ΨΨΨ

ペロポネソス半島
ヨーロッパ最大級の田舎と言われている所らしい。

 船に乗ってペロポネソス半島へ。チケットをどこで買うのか分からんのでとりあえず船に向かうとにーちゃんが乗れと言うのでそのまま乗り込んだ。チケットのチの字もしくはカネのカの字のことなどはオクビにも見せず、にーちゃんは網で小魚を掬うのに夢中である。もしかしてタダか?と少し喜んでいたらドラが鳴る。すこしぼーっと島を見ていたら、おっさんがきて270と言った。お金を払ったらもう着いた。

ΨΨΨ

赤カブ
本来「赤カブ」と言えば、ハンターカブと云われるちょびっとばかしオフロード仕様の、たしか110ccのカブのことだけれど、ここで言う赤カブはまさに日本の郵便屋さん仕様の単に赤色に塗っているカブのこと。間違いなく、あの郵便バイクがお払い箱になってギリシャに渡ったものに違ない。

 赤カブにまたがりいざレモナダッソスへ。
 気分はユービン屋さんである。きらきら光る海の向こうには小島に出島、中の島。坂をぐいぐい登って行けば広がるオリーブ畑、きらめく海、すいすい走るヨットの帆…のはずだった。
 わが赤カブは途中でぷすぷすと情けない弱音を吐き出しエンスト寸前。なんとかなだめてすかして漸く坂の上に到着できた。パチパチパチ。
 風がここちよい。景色も最高。どうやら道を間違えたようだ。引き返す途中浜辺に降りるらしき道があったので、ついでじゃぁと行ってみると急な坂にオフロード、おまけにタイヤはボーズだから帰りが思いやられる。どんどん下るがいつまでたってもビーチに出る気配がない。またもや間違えているようなので引き返す。おーい本田くん、がんばってくれたまえ!ポツネンと建っている家のベランダでおばあちゃんが手を振っているではないか、がんばれ。テを降ろして一人乗り仕様で漸く坂道を脱出した。あとは下りだけだ。ふう。

ΨΨΨ

(a)第1の看板

(b)第2の看板

 レモナダッソスという看板のある教会の傍に赤カブを止め、15分だという道のりを歩きだす。トカゲが逃げ、ハエが舞い、ハチが近寄ってくる。

 落書きされている看板を発見
(a)。うーむ、いったいどっちが正解なんだ?上に描いている方向に行ってみる。

 15分──。どうやら間違えたようだ。引き返す(なんと今日はこの文字が多いことか)。木陰には涼しい風。下半分を白くペイントされたレモンの木。

 看板が再び現れる。今度のは落書きされてない
(b)。が、この看板自体がニセモノだったりして。
 レモンだけでなく枇杷の実も生っている。と感心したところでタベルナが出現した。やれやれ。「ハーロウ」とじっちゃんが出迎えてくれる。「カリメーラ」


 「コーラ?レモン?ウゾ?」とじっちゃん。
 「レモン」と答えるとはちみつレモンが2つ運ばれた。
 いるのは年寄りばかり。先客に中年夫婦1組、ビールを飲んでいる。あー、のんびりします。「エクスキューズミー、フォトグラーフ」と言って写真を撮ってくれた。どうやらこのじっちゃんがここの主人兼ウエイターらしい。
 「チーナ?ジャパン?」
 「ジャパン」
 「トーキョー?」
 「オーサカ」と答えると「オー、ポルトポルトーッ」と言って喜びだした。お客なのか連れなのかその他のじっちゃんたち4・5人は、向こうのテーブルでぺらぺら喋りまくっている。うーん、食事はできるんだろうか?ただ一人のばあちゃんはレース編みをしている。
 じっちゃんたちのギリシャ語をBGMにこの文を書いていたら青シャツがのぞきこんできた。「ジス・イズ・シャパニーズ文字」と言うと、通じているのかいないのか、うんうんとうなずいてお喋りテーブルに去って行った。
 「フォトー」と言ってカメラを向けると、みんなきっちりとポーズをつけて静止した。

 何がおこったのか、急にガチャガチャと騒がしくなったと思ったら、ウエイターじっちゃんがやってきて、船のイラストを描いた紙切れを2枚置いてフォトーフォトーと言っている。紙を見ると住所らしき文字を書いてある。この住所に写真を送れと言っているらしい。そしてじっちゃんの名前はカラランボだと言うことがわかった。

(c)Charalambos

ΨΨΨ

 オーケーと返事をするとよっしゃよっしゃという感じでテーブルに戻って行った。
 戻ったと思うと年寄り連中は仲良く揃って食事をとりだした。ガチャガチャというのは食事の用意だったのだ。なんだ、食事ができるんではないか!ちょっと観察していると、ワインにソラマメの煮たようなもの、パンに生(?)ニンニク、フェタチーズを食っている。
 うまそー。いっちょう頼みやしょう!同じソラマメにオムレータ、コカコーラ。しかし出してくれたのはコカコーラだけで、年寄りたちはずっと食事を楽しんでいる。
 空腹──。
 みんなの食事が終って漸くばあちゃんが立ち上がり、玉子をカチャカチャ言わせはじめた。
 オムレツは玉子4コ分ほど、ソラマメにはオリーブ油がたらしてあって何やらハーブもかかってある。昨日までとは大違いで薄味だから奮発してフェタチーズも頼んでしまった。うーん満足。たいへん美味しくいただきました。

まん中がカラランボじいさんで、左が青シャツのアンドレア。約7ヶ月後、帰国して写真を送ったが、返事はない。

ΨΨΨ

 若いカップルの客が来たので、カラランボが注文をとり青シャツとばあちゃんがチューボーに立つ。カラランボがビニールシートをテーブルにかけ皿を運ぶ。うーむ、ここはシルバー人材センターなのか?
 しばらくねばっていると、赤ワイン(自家製らしい)とオリーブを出してくれた。そして例のごとくお喋りに復帰した。飲酒運転になってしまうけど、ポリシー(ジンクスともいう)として、出されたものは平らげなければいけないので、飲まんわけにはいかん。もともと酒には弱いのでちびちびやって、テに助けてもらいつつ、やっと飲み終った。また注がれるとマズイので、カラランボにさっとペイしたいと言うとOKOKと言って向こうに行った。

 カラランボが近づいてくるのを見ると、ワインのビンを持っとるではないか!「ノーノー!もうこれ以上飲めまへん」と言っても「ノマレルデ!ノマレルデ!」と言って注いでしまった。カンパイを3人でして、困ったちゃんの顔をしていたら「そんなに体が大きいんだから大丈夫。ワインは体によいのだ」と肩をたたかれた。うーん、ノマレンデノマレンデ。

ΨΨΨ

レモナダッソスのおいしい水もサービスしてくれた。

 しかたないので、なるべく酔わないようにチビチビやっていたら、カラランボまたまた現れ「私の名前はカラランボ、君たちの名前をまだ聞いていなかったようだね」と言う。そういえばそうだ。
 「あー、ヒロヒコです」
 「ヒロチト?」
 「ヒ・ロ・ヒ・コ」
 「ヒロヒト?オー、ヒロヒト!ヒロヒトー!」
 向こうのテーブルを含めたみんなが足を踏み鳴らしての大合唱、先の天皇の名前で大ハシャギされてしまった。わかっとんのかいな?
 それに興奮してか青シャツもやってきてタバコを勧めてくれる。酒もダメならタバコもダメなのである。いやタバコについては日本嫌煙協会の幹部になってもよいとさえ思っているので、ていねいにお断り申し上げる。酒の場合はムリにでも飲ませようとする習慣があるのに対し、タバコについてはどういう訳か世界共通にその傾向は皆無と言ってもよいから、その点はラクである。青シャツの名前はアンドレアというそうだ。アンドレアも「ヒロヒトー」とはしゃいで踊りながら向こうに帰って行く。

ΨΨΨ

 至れり尽くせリ、最後にカラランボ、グリークコーヒーまでふるまってくれた。勘定も1500と破格の安値だった。しかしワインは残っている。クイモンのカミサンにはすまないが勘弁してもらうことにして席を立った。いつの間にか3人組に減っていたシルバー軍団に別れを告げる。アンドレアと握手し白帽とも握手。カラランボと握手すると別れのキッスまでされてしまい、ヒゲが刺さった。
 バイバイと言って店を出て、外にあるトイレに入って出ると、まだこっちを見ている。手を大きく振って本当にサヨナラをした。少し遠ざかるとレモンの木の向こうで大きなクシャミが響いた。

ΨΨΨ

 帰りの赤カブはすこぶる調子いい。その調子だ本田くん。
 何やらきれいそうなビーチを発見。寄り道してみるとそこは日陰など全然ない砂浜で、中学生くらいの子供が3・4人小さな船着き場でトビコミをしてほたえている。少し離れた所にいちぢくの木の木陰を発見したので、そこで休むことにした。しばらく涼んで酔いを醒ましていると、HELMES ONE DAYとペイントされたでぇーかいっ船(おそらく日帰り観光船)が目の前を横切った。かなり浅瀬のように見えるのによく通れるなぁーと思っていると、ザザザブーンと巨大な波がおしよせて来るので退散した。

ΨΨΨ

 このまま帰るのも勿体ないし、それほど走ってもいないので、もう少しツーリングを楽しむことにした。桟橋を通り過ぎ、どんどん進んでみる。けっこう広い道だし車にも殆ど会わない。トボトボ歩いている子供やサイクル野郎を追い越し、オリーブ並木の間を抜けるとトリジナという町に入った。坂道がきつくなったので、プスプス言い出す。これ以上登るのは諦めて、目に入ったカフェにカブを止めた。
 アイスコーヒーと言ったけど、どうやら通じない。無精ヒゲ親父にカモンと言われて薄暗い店の中に連行される。要はそこにある品物を指差して注文しろということだ。テはファンタレモンで手を打ったが、わしはネスカフェの粉の入ったビンとグラスを指差してシャカシャカする真似をしてアイスアイスと言ってみた。すると親父さん、「アー、フラペー!」と理解を示したから大したもんである。
 運ばれたものはまさしくアイスコーヒーのように見えたが、ぬるくて恐ろしく甘いものだった。田舎の婆さんの家に行って出される味に似ている。2つで400。
 ガソリンを調べてみると殆ど残ってないように見える。しかし、1リットル80kmは走るというキョーイのホンダエンジンだ、スタンドまではもつだろう。無精ヒゲ親父に手を振ってカフェをあとにした。

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昭和シェル石油
米国ブランドだと思いきや、オランダのブランドであることが、約5年後発覚。無用の事ながら、アムステビアといい、シェルといい、オランダと関係が深いのか…?

 下り道、快調にぶんぶんスッとばしていたが、ストップ標識で一旦停止したら突然プスンと言って止まってしまった。シートを上げキャップをはずし揺すってみると、かすかに音はする。単なるガス欠だったらいいけど故障だったらチト厄介だなぁ。タンクを開けたまま腕組みしてヨワっていると、無精ヒゲ、長髪、ハーフコートの『おれたちの旅』か何かに出てきそうなフーライボー約1名がどこからともなく現れ(ホントは向こうから歩いてきてたけど)、傍に生えてるワラのような枝を手折ってタンクの中に突っ込んでしまった。
 それを抜き取ると、『おれたちの旅』は首を振って掌でパーをつくり「ストレート」と言って、もと来た道を穂先でゆっくりとさし示した。
 なるほど、この道を500mまっすぐ行けっちゅうことですな。サンキュと言って『おれたちの旅』と別れた。

 ♪ゆめの〜たびじは〜このは〜もよーのいしーだたみ〜と口笛を吹きつつ歩くと、ほんの250mほどで昭和シェル石油が現れた。『おれたちの旅』は500mではなく5分と言ったんだろうか。ちょっと拍子抜けだがこの方がありがたいに違ない。カブを止めて、上半身はだかオーバーオール着用はだし油汚れ無精ヒゲちょっと太め男が近寄ってくるのを待つ。
 「ワンリットル、OK?」と言うと無言のまま頷いてスーパーという方を1リットル入れてくれた。「ハウマッチ?」と訊くと「ツーハンドレッド」だそうなので、100ΔPX.金貨2枚を渡し、何事もなかったかのごとく軽やかに出発した。

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 桟橋に着くと、無精ヒゲめがねおじさんノーマルカブ1人、無精ヒゲ長髪若者シャリィ&改造カブ計2名〆て3名が並んでいた。車がバックで乗ってしまうのを、無精ヒゲ軍団と一緒に待ってから、バイクも全員バックで押して乗り込む。
 うちの田舎で乗るフェリーとは違って、動き出してもすぐに着岸するもんだから、客室なんぞというシロモノでくつろぐ暇はない。客室なんてもとから無さそうだ。みんなバイクに跨がったまんま、速攻でエンジンをかけバリバリ言わせはじめている。前の車が降りて、トロトロしとったら煽られそうやなぁと幾分キンチョーしていたら、横の改造カブがお先にとゼスチャーしてくれた。ありがとう。

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 きのうの夕方に行った方のスーパーまで足を延ばし物色していたらうまそうなものを発見したので、派手な顔だちのねーちゃん(化粧濃いめ金髪)に、これはなんですかと訊いてみたらヨーグルトシープという答えが返ってきた。ははあ、山羊だか羊だかのヨーグルトか…、やめとこと思っていたら、客らしい男の人が寄ってきた。ハーフシープハーフカウヨーグルト、ディス・イズ・グレートフード・オブ・グリースと言って自慢したので買ってしまおうかと思ったけれど、やっぱりやめた。結局、トマト、ビレッジブレッド、チーズ、ハム、アンチョビの缶詰め、昨日も買ったミニクロワッサン計1700いくら。
 支払いの時、テお手製の財布を見て「これはジャパンのトラディショナルなもの?」と派手姐が訊いてきた。
 「イエスイエース」
 「やっぱり。昨日見てとっても興味をおぼえたのよね」
 「いやー、ありがとありがと」と言って我々は立ち去った。少しハナタカになって。

↓開いた図
ひもについて
いるのは5円玉

三つにたたみ紐で
くるくると捲いた状態
どこかの民芸品屋で
見かけたのを参考に
テが縫った
生地はクリオカさんに
もらったもの

あとで冷静に考えると、ちょっと恥ずかしいものがないでもないけど、けっこう便利なのであった。
毎日、5円玉でしばっていたからすっかりボロボロになってしまった。

ΨΨΨ

 部屋に帰ってうがいをしようとシャワールームで鏡を見たら、自分も無精ヒゲだった。

 シャワーを浴びて、夕食をとりに屋上に行ったら2組ばかし先客がいた。顔はイタリア人っぽいけど言葉はどこなのか分らない兄ちゃん2人組の奏でる、唄うようなおしゃべりもしくはおしゃべりのような唄をバックに(前にいたからフロントか?)、夕日を見ながら食事した。この島にきてから一番うまい夕食だった。
 海の向こうにトリジナの町の灯が見えた。

(c)1995-2002 HaoHao

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